凍 星〜学園ヘヴン〜頂き物【あかいつめ】

あかいつめ

written by : ajako 様

外はまだ、暑い盛りなのに。
目の前には、ガラスの器にこんもりと、甘い香りの苺。

「かずに、かずに!」
「何だ?」
「あのね、今は夏でしょう?」
「…?うん。」
「イチゴはハルのくだものでしょ?こんなにたくさんどうしたの?」
「ああ。…えっと、オマエ、苺が一番好きだって、言ってただろ?」

こくこく。
大好き大好き、そんな感じで頭をたてに振る小さい子。

「だから、家に食料を入れる人に、頼んどいた。場所によっては、まだ作ってるんだよ。」
「…えっ!そうなんだ!……森のおくにいって、12ヶ月のようせいにたのんだのかな?」
「なんだ、それ?」
「お話。「もりはいきている」っていうので、そういうのあるんだよ。」
「知らない、ごめん。」
「ぼくも、ばしょはしらないから。」

かみ合っているのか、いないのかよく分からないままに。

ぱく、と。
途端に広がる、甘い甘い香りがもっと強まり。

「……お・い・し・〜い!!」
「良かったな。」

自分が誉められてしまったような、妙な照れた気持ちを味わう和希。
一緒に一緒にと勧められるので、気持ち程度に、一つ、二つ口に含む。

「あ、ちいさいムシがイチゴたべにきた!」

叫びと共に、啓太の赤く染まった指が、和希のシャツに止まった虫に触れようとする。
タッチの差で、逃げおおせる命。
シャツに残された、ぽつんと赤い染み。

小さな赤い爪のはんこが押したスタンプは、
その日一日中、
和希を苺の甘い香りで包んだのだった。


サイト 『カズキスキ』 様  より
 2006/5/16